【予防法務】予防法務とは?
このページでは、会社経営において大切な法的リスク管理(リーガルリスク・マネジメント)の一貫である「予防法務」について解説しています。予防法務はトラブルを未然に防げるよう取り組む法務業務であり、まずは概念と必要性を正しく理解しておきましょう。
企業経営のトラブルを未然に防ぐ法務業務
予防法務とは、文字通り様々なトラブルの発生を予防するための法務業務の総称です。
どのような企業であれ、会社経営を行っていく上で法律や訴訟に関連した問題発生のリスクは多かれ少なかれ常にあります。そして基本的に、法的リスクは実際にトラブルとなった時点で、解決にかかる費用や労力が一気に増大してしまうことも重要です。
予防法務は法的リスクへ適切に対処しつつ、そもそも法的トラブルが発生しないように対処するためのリーガルリスク・マネジメントの一貫であり、契約書の書式の見直しや担当者の人材教育など、多角的なアプローチによって考えていかなければなりません。
そのため、予防法務を考える際は、必ず幅広いケースを想定しながらコストバランスや実践内容を検討していくようにしてください。
予防法務が重要視されているのか?
予防法務の本質は、あくまでも「法的トラブルを起こさせないよう事前に対処する」という点となります。
社会人や現代人として問題のある行動に関して社員教育を行ったり、書類の文言や契約手順などを見直して新しい業務フローを構築したりといった取り組みには、多かれ少なかれコストや労力が発生します。
しかし、いざ顧客や取引先との間で法的トラブルに発展してしまうと、その解決には事前対処と比較にならないコストや労力が必要となりかねない上、企業の社会的イメージが悪化してしまう恐れもあるでしょう。
そのため、日頃から予防法務についてしっかりと取り組んでおくことは、会社経営のリスク管理を考える上で非常に重要なポイントとなります。
予防法務の例
事業を営んでいく上で想定されるトラブルやリスクは、顧客や取引先など社外の人間との間だけで発生するものではありません。社内の労務問題に関するリスクや、競合他社との間で発生するトラブル、もちろん大切な顧客や取引先との間の問題などもあり、様々な状況を想定した上で予防法務へ取り組むことが大切です。
そこで、ここでは状況別に予防法務の事例をご紹介します。
労務分野における予防法務
従業員がうつ病を発症して退職後、自殺してしまった場合や、復職後に症状が悪化して自殺してしまった場合など、最悪な結末へ発展してしまう可能性はあります。このような場合、会社が遺族から過労死問題で訴えられたり、あるいは「無責任に復職を認めて症状悪化を招いた」といった理由で訴えられたりする恐れがあります。
実際、市川エフエム事件東京高等裁判所平成28年4月27日判決では、従業員の強い希望があったために復職を認めていたという事情があったものの、結果的に会社が訴訟に負けて倒産しており、労務分野や福利厚生の観点で予防法務への取り組みを考えておくことは大切です。
労務関連の法改正を定期的にチェックし、就業規則や各種契約書、関連法律にもとづくコンプライアンスといった意識を徹底しておきます。
知的財産分野における予防法務
悪意を持って他社の知的財産権を侵害したり、安易に個人のデザインなど著作物を盗用したりすることは論外です。しかし、中には意図せずロゴやマークが似てしまったり、すでに商標登録されている文言などを商品名や店舗名に設定してしまい、商標権侵害で競合他社などから訴えられたりしてしまうケースが考えられます。
また、普段から知的財産分野へのアンテナを張っておかず、別の会社が商品やサービスの名称を商標登録するのを放置していた場合、先に使用していたのが自社でも訴訟に負けてしまうかも知れません。
商標権や意匠権、著作権について社内教育を徹底しつつ、競合他社の権利侵害をしていないか、自社の権利が侵害されていないかきちんと確認しておきましょう。
取引分野における予防法務
取引先とのトラブルも、商品の受け渡しや料金の支払いといったことの他にも、サービス提供後のクレームや不具合品の責任問題など色々なものが想定されます。
取引分野における予防法務を徹底する場合、契約書や商品・サービスに関する資料の内容を見直して適正化すると共に、契約相手から提示された資料や文書についてもリーガルチェックを行うことが必要です。
また、債権・債務の管理を明確化して、不払いや未入金といった問題が生じた際にはどう対処するかフローを構築しておくと良いでしょう。
予防法務において法務部が果たす役割とは
自社に法律の専門チームとして法務部を設置しておけば、問題やリスクに気づいた時に速やかに相談し、解決に向けて動き出すことが可能です。また自社の事情を正しく理解する法務チームを抱えておくことで、様々なケースにおいて自社の立場を基準とした解決策や対処法を勘案してもらえる可能性も高まります。
加えて法務部と常に連携することで、社内全体にコンプライアンスへの意識が向上することも重要です。
社内における法的リスクの発見
法務部は何か問題が起きてから解決に向けて動くだけでなく、日頃から社内の体制や環境に目を配り、そもそも問題の種がないかチェックして回る重要な役目があります。
経営者や従業員が気づいていないだけで、実は社内に様々な法的リスクや問題点が点在しているケースは珍しくありません。また、法律の専門家だからこそ気づける矛盾や危険性もあるでしょう。
日常業務における法的リスクへの対処
誰もが無自覚に不法行為を働いていたり、時代の流れに合わせて変更される制度によって、昨日まで問題なかった行為が今日から不正や違反になったりする場合もあります。
ビジネスに関連する法律やルールは多種多様であり、さらに不定期に改正や更新が行われることも。そのため専門家でなければ常に最新の情報へアプローチした上で、現状の社内の状況と照らし合わせて問題点の検証をするのは難しいでしょう。
外部弁護士のアドバイスを踏まえた社内調整
外部弁護士は客観的な立場でクライアント企業の問題点やリスクを検証し、アドバイスを行ってくれます。そのため、社内調整をする場合でも、外部のプロへ相談して意見を求めることは重要です。
長い間ずっと続けられてきたような慣習や、時代錯誤のビジネススタイルが常態化しているような企業では、現代において法的リスクとなっている問題を数多く抱えているケースも少なくありません。また若い社員や部下が問題点を指摘しても、経営陣や上司が進言を聞き入れない場合も第三者のアドバイスで社内調整がスムーズにできます。
予防法務において外部弁護士が果たす主な役割
予防法務を考える上で社外の弁護士が果たす役割や活用メリットなどを解説します。
日常的な法律相談に対する回答
例えば顧問弁護士として外部弁護士を活用しているような場合、社内外で日常的に起こるトラブルや様々なリスクといった問題について、法律のプロへ専門的な相談をすることができます。外部弁護士は社内の法務部よりも客観的に物事を観察できる上、諸問題に関してそれぞれ適性の高い外部弁護士を活用し、より専門性や信頼性に優れた法律相談や回答を実現することが可能です。
また、法務部が出した結論を改めて外部弁護士に検討してもらうなど、法律問題のセカンドオピニオンのような使い方をすることもできるでしょう。
複雑な法律問題に関する専門的な検討
弁護士と一口に言っても、その専門性は様々であり、弁護士によって得意とする分野や携わってきた案件も異なります。例えば改正特定商取引法を得意とする弁護士に社内のセクハラ問題を相談しても、100%の成果を得ることはできないかも知れません。
法務部に所属している弁護士や専門家がいたとして、全てのジャンルやテーマについて優れたプロをそろえることはコスト面を考えると困難です。そのため、必要に応じて適切な外部弁護士を使い分けて、専門性を高めるといった方法は有効です。
客観的な視点から見た改善点のアドバイス
適切かつ信頼できる予防法務を考える場合、時には社内の現状をかんがみて様々な問題点や、特に経営陣などにとって好ましくない指摘をしなければならないこともあるでしょう。
法務部はそういった業務を正しく実行することが求められるものの、現実として企業に所属する立場から完全な客観性を維持することが困難な場合もあります。
その点、あくまでもクライアントと法律のプロという関係で対応してくれる外部弁護士は、冷静かつ客観的な相談相手として重要です。