損害賠償責任保険の補償範囲

組立保険の補償範囲とは

据付・組立工事中の不測かつ突発的な損害を補償

組立保険とは、機械設備や装置などの据付・組立工事中に、不測かつ突発的な事故によって生じた損害を補償する保険。一般的な保険に比べると、一見、補償範囲はいものの、他の保険では補償されない部分も多いため、関連する事業を展開している企業においては、ぜひ加入を検討しておきたい保険です。

組立保険とは

組立保険とは、機械設備や装置などの据付・組立工事期間中に、火災や暴風雨、作業ミスなど、不測かつ突発的な事故によって生じた損害について補償する保険。建物の建築中の事故や、道路工事中の事故などを補償する保険ではないので、混同しないようにしましょう。

不測かつ突発的な事故とは、個人住宅向けの火災保険でよく目にする保険用語。「予測不可能な事故で、かつ事故の原因や事故日が明確な事故」と定義されています。

詳しいイメージが付きにくい人も多いかと思いますが、個人向けの火災保険のおいては、発生件数が非常に多い部類の事故として知られます。据付・組立工事においても、同様に発生頻度は低くはない事故と考えて良いでしょう。

なお組立保険は、基本的には据付・組立工事ごとに加入する保険になりますが、保険会社によっては、工事の受注数が多い業者に対して年間包括契約を用意しています。

組立保険の対象となる工事は?

組立保険は、すべての建設作業における損害を補償する保険ではありません。機械・機械設備・装置などの据付作業や組立作業において生じた損害を補償する保険です。具体的には、以下のような工事が対象となります(損保ジャパン日本興亜「組立保険」の場合)。

■建物の内・外装工事、付帯設備(冷暖房・給排水・電気・ガス設備等)の工事

■鋼構造物の建設工事

【具体的な工事の例】
アンテナ、鉄塔、鉄骨建物、アーケード、煙突などの据付・組立工事

■各種の機械、機械設備、装置の据付・組立工事

【具体的な工事の例】
プレス機械、金属工作機械、溶接機、溶鉱炉、発電機、通信機、コンピューター、エレベーター、エスカレーター、配管などの据付・組立工事

■複数の機械、機械設備、装置が集まった設備一式の工事

【具体的な工事の例】
発電設備、冷凍・冷却設備、し尿処理設備などの据付・組立工事

■工場、プラント、発電所などの建設における設備―式の工事

【具体的な工事の例】
各種製造工場、各種加工工場、化学プラント、発電所、変電所、製鉄所などの据付・組立工事

[1]補償の適応ケース

組立保険の補償内容をイメージするために、具体的な補償ケースについて見ていきましょう。

なお、以下は損保ジャパン日本興亜の組立保険を参考にしています。他の保険会社における補償内容とは異なる場合があることをご了承ください。

■施工上の作業に伴って発生した事故

  • ・作業員がクレーンの取り扱いに慣れておらず、誤って作業中の資材を落下させてしまった。
  • ・防熱工事中に火花がウレタンボードに飛び、火災となって保湿剤を焼失した。
  • ・組立作業のプロセスに欠陥があり、据付けた設備が倒壊してしまった。
  • ・橋梁の設計に欠陥があり、組立作業中に橋の一部が落下した。

■外来的な理由に発生した事故

  • ・し尿処理施設において、集中豪雨の影響で水が地下に流れこみ、送風機、電動機、焼却炉が損傷を負った。
  • ・大雨による土砂崩れによって、据付作業中の機材が流された。
  • ・台風による影響で、外装改修工事中の外壁の型枠が飛ばされた。
  • ・組立予定の資材が盗難に遭った。

■その他の理由で発生した事故

  • ・据付作業を行っていた建物でガス爆発があり、資材等が焼失した。
  • ・過電流によって電気設備が損傷を負った。

[1]補償が適応されないケース

以下のものは、補償の対象にはなりません。

  • ・据付機械設備等の工事用仮設備、および工事用機械・器具・工具、ならびにこれらの部品
  • ・航空機、船舶、または水上運搬用具、機関車、自動車その他の車両
  • ・設計図書、証書、帳簿、通貨、有価証券、その他これらに類する物
  • ・触媒、溶剤、冷媒、熱媒、ろ過剤、潤滑油、その他これらに類する物
  • ・原料または燃料、その他これらに類する物
[1][2]

また、以下の理由によって生じた損害については、補償の対象となりません。

  • ・保険者等における故意、重過失、法令違反による事故
  • ・風、雨、雹、砂塵じん等の吹込み・漏入の影響による事故
  • ・戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱、その他これらに類似の事変
  • ・暴動または騒擾じょう
  • ・労働争議中の暴力行為、破壊行為等
  • ・官公庁による差押え、徴発、没収または破壊
  • ・地震、噴火、またはこれらによる津波
  • ・核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物の放射性、爆発性その他の有害な特性の作用、またはこれらの特性による事故、およびその他の放射線照射または放射能汚染
  • ・残材調査の際に発見された紛失、または不足
  • ・テロ行為等、他
[1]

被保険者における故意や重過失、法令違反による事故が補償の対象外となる点については、常識的な感覚で理解できるでしょう。また、戦争や暴動、テロ行為などの影響による損害についても、補償の対象外となることに違和感はありません。

注意したいのは、「残材調査の際に発見された紛失、または不足」です。冒頭で説明した通り、組立保険は「不測かつ突発的な事故」による損害を補償する保険。その定義は「予測不可能な事故で、かつ事故の原因や事故日が明確な事故」と説明しました。残材調査で資材等の紛失が確認された場合は、具体的な事故日を特定することができません。「後になってから損害を知った」という事例においては、補償の対象とならないことを覚えておいてください。

既存の保険ではカバーできない損害を補償

自社の作業員が作業中にケガをした場合に備え、国の労災保険の他にも、民間の任意労災保険に加入している経営者は多いでしょう。あるいは、他人の身体や財物に損害を与えた際の損害賠償責任に関する保険にも加入している方は少なくないはず。

しかし、これら既存の保険では、据付・組立作業に伴う自社の損害をカバーすることはできません。

  • 01

    成果物に対する保険も必要

    工事現場におけるリスクは労災にとどまらず、機械の設備・装置などの組立工事をしている最中の事故や災害に備えておく必要があります。例えば、「火災で資材が全焼してしまった」「工事現場の資材が盗難に遭った」などのリスクが考えられるでしょう。

    賠償責任保険は第三者に対しての損害賠償を補償するもので、組立保険は自社の建設資材や設備の損害を補償するものです。

    賠償責任保険では賄いきれない自社の利益を守るためにも、建物の外装・内装工事、ビル付帯設備工事などに携わっている建設事業者は、工事が始まる前に組立保険への加入を検討しましょう。工事期間中、安心して作業に取り組めます。

  • 02

    適した保険と、それを取り扱う保険会社を確認すると〇

    しかし、組立保険への加入を検討した際、どの保険会社を選ぶべきか分からないことも。保険会社とひとくちに言っても、補償範囲や保険金の支払い上限額などの差異があり、会社によって異なります。

    そのため、自社で請け負っている工事内容に則して、どの範囲まで対応できるのか事前の確認が必要です。確認なしで契約してしまうと、実際に事故が発生した時に補償されない事態に陥ってしまいます。対応可能な範囲を知るため、逆に補償範囲外の内容を確認しておくのも良いでしょう。

    肝心の保険料も、保険会社ごとに基準はバラバラです。工事の機械や設備の種類や工事期間によって、保険料が大きく左右されることも。

    建設事業を営んでいる会社では、工事のたびに契約するのは手間になってしまいます。手間をかけたくないなら、年間の工事を包括補償してくれる保険会社を選ぶのがおすすめです。

    円滑に工事を進めるためにも、自社に合った組立保険を提案している保険会社をチェックしておいてください。

参考文献

[1]損保ジャパン日本興亜「組立保険のご案内」デジタルパンフレット

URL:https://www.sompo-japan.co.jp/~/media/SJNK/files/hinsurance/contents1/const_1702.pdf

[2]東京海上日動公式サイト「組立保険-商品概要」

URL:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/hojin/koji/kumitate/shohin.html
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