損害賠償責任保険の補償範囲

役員賠償責任保険の補償範囲

役員に命じられた損害賠償等を補償する保険

たとえ故意ではなかったとしても、結果として、役員の業務が他人に損害を与えてしまうことがあります。損害を被った他人は、役員を相手取って損害賠償の訴訟を起こすかも知れません。役員が命じられた損害賠償を補償する保険が、役員賠償責任保険です。役員を守るため、ひいては会社を守るため、企業規模の大小に関わらず多くの会社が加入している保険です。

役員賠償責任保険とは?

役員賠償責任保険とは、会社役員の業務に起因して損害賠償請求が命じられた場合、その賠償額を補償する保険です。損害賠償のみならず、裁判で生じた各種争訟費用も補償の範囲に含まれます。

会社役員には、一般社員とは異なる大きな責任が課されています。故意や重過失によって生じた他人への損害のみならず、善管注意義務や監視・監督義務の不徹底によって生じた他人への損害についても、会社役員は大きな責任を負わなければなりません。

また、現時点では問題のない役員業務と判断されたとしても、その業務が原因となって10年後に他人へ損害を与える可能性もあります。この場合も、当該役員は責任を免れません。

多額の賠償請求が役員個人に命じられた場合、その役員が引き続き安定して経営に専念することは難しくなります。経営全体にも、大きな打撃を与えることでしょう。

役員賠償責任保険は、形式的には役員個人を守るための保険であるものの、実質的には会社全体を守る保険とも言えます。

※一般に役員賠償責任保険は「D&O保険(Directors and Officersの略)」と呼ばれています。

会社役員に課せられる責任の種類

役員が行なう経営判断には、非常に大きな責任が伴います。「第三者に対する責任」と「会社に対する責任」に分け、以下、三井住友海上の役員賠償責任保険を元に詳しく見ていきます。

第三者に対する責任

役員が負う会社に対する責任には、「一般の不法行為責任」と「会社法上の特別責任」があります。これらの責任を役員が果たせなかった場合、当該役員は第三者訴訟にかけられる可能性があります。

一般の不法行為責任
役員が故意・過失によって第三者の権利を侵害した場合、役員は、その損害賠償責任を負います。
会社法上の特別責任
役員の業務において悪意・重過失があった場合、役員は、これによって生じた第三者の損害賠償責任を負います。

会社に対する責任

第三者に対する責任には、「善管注意義務」「忠実義務」「競業避止義務」「利益相反取引回避義務」「監視・監督義務」があります。これら責任を役員が果たせなかった場合、当該役員は株主代表訴訟または会社訴訟にかけられる可能性があります。

善管注意義務
取締役には、役職に相当する程度の注意力をもって業務を遂行する責任があります。
忠実義務
取締役には、法令や定款などを遵守し、会社のために忠実に業務を遂行する責任があります。
競業避止義務
取締役会における承認なくして、取締役が競業取引を行なうことはできません。
利益相反取引回避義務
取締役会の承認なくして、取締役が会社と利益相反する取引を行なうことはできません。
監視・監督義務
取締役には、他の取締役が法令や定款等を遵守して業務を遂行しているかを監視・監督する責任があります。
[1]

会社役員賠償責任保険に加入するメリットとは

会社役員賠償責任保険の大きなメリットは、以下の3点です。

役員個人と会社を守る

役員が多額の損害賠償を命じられた場合、その個人資産で賠償額を賄うことは難しいかも知れません。結果、損害賠償を命じられた役員は、以後は安心して役員業務にあたることができなくなる可能性があります。

信頼できる役員の欠員は、会社にとっても大きなダメージ。役員個人を守るとともに、会社の安定も守る意味で、会社役員賠償責任保険は大きな役割を発揮します。

10年間のタイムラグ補償

現在の損害の原因が、10年前の役員業務に起因する場合もあります。あるいは、現在の役員業務が、10年後に損害を生む可能性もあります。

会社役員賠償責任保険では、「保険期間開始の10年前以降の役員の業務によって生じた損害」や、「役員退任後、10年以内に生じた損害」等について補償が用意されています。言わば、10年間のタイムラグ補償です。

タイムラグの仕組みについては、各保険会社によって違いがあるため、契約前に内容を確認してください。

国外での損害賠償も補償

会社役員賠償責任保険は、役員が国外で命じられた賠償についても補償します。海外にも事業を展開している企業にとって、非常に大きなメリットとなるでしょう。

役員賠償責任保険の3つの補償内容

役員賠償責任保険は、大きく分けて「損害賠償金」「争訟費用」「特約に応じた費用」の3つを補償します。以下、三井住友海上の役員賠償責任保険における補償内容を詳しくみてみましょう。

なお、「損害賠償金」と「争訟費用」については、各社の役員賠償責任保険において、その補償内容に大きな違いはありませんが、「特約に応じた費用」については、各社が用意する特約の種類に応じて内容が異なります。

損害賠償金

法律上の損害賠償責任に基づく賠償金を補償します。具体的には、判決で支払いを命じられた損害賠償金や和解金などです。

ただし、罰金や科料、課徴金、税金、懲罰的な意味を持つ賠償金等については補償されません。また、賠償に関して他人との間で約束があった場合、この約束によって加重された賠償部分についても補償されません。

争訟費用

損害賠償請求の争訟によって生じた費用で、なおかつ被保険者が保険会社の同意を得て支出した費用について補償します。

特約に応じた費用

「標準プランに付帯する特約」「条件に応じて付帯する特約」「任意で加入する特約」について、事案が該当する場合にはこれを補償します。

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会社が保険料を負担した場合には全額損金扱い

役員賠償責任保険の保険料を会社が負担した場合、その保険料は全額会社の損金として計上することができます。ただし、会社による保険料支払いについて、会社法に基づく取締役会などで決定した場合に限ります。

また、会社が役員賠償責任保険の保険料を負担した場合、その保険料については役員個人の所得となみなさないことが確定しました(国税庁公式サイト)。

よって、たとえ実質的に保険料は役員個人の報酬に属するものであっても、その役員個人の所得税や住民税に影響することはありません。

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責任が大きいからこそ損害賠償額も大きくなる

役員が第三者から訴訟にかけられるケースは、決して珍しくありません。

仮に会社が生産した製品に欠陥があり第三者がケガをした場合、担当役員は損害賠償を求められることでしょう。さらに、商品の欠陥によって生産がストップした場合、担当役員は取引先から賠償の訴えを起こされる可能性もあります。上場企業の場合は、これら事故の連鎖によって生じた株価の下落に関連して、株主から訴訟を起こされる場合も少なくありません。株主から訴えられるケースは毎年100件以上もあり、多い年では200件を超えることもあるそうです。

  • 01

    役員の責任は当然のように大きい

    役員は会社を経営する上での責任が大きいため、万が一訴えられた場合請求される損害賠償の額が多くになります。そのため、保険に加入していない役員個人が訴えられてしまうと、損害賠償の支払い義務がすべてその役員にふりかかることになるのです。

    役員個人の資産を守り、会社の安定的な経営を維持するためにも、保険に加入しておくことが大切。役員や会社を守るためにあるのが、役員損害賠償保険なのです。

  • 02

    定期的な保険の見直しも重要

    会社を経営する上でミスをすることは少なくありません。例えば、新規参入事業に大きな投資をした結果、会社の経営に大ダメージを与えてしまったり、誤って欠陥商品を販売して損害を出してしまったりして、役員に責任があると訴えられることがあります。会社を経営するということは常にリスクを抱えているのです。

    また、雇っている従業員の業務で生じたミスで誰かをケガさせてしまうと賠償責任が問われるケースもあります。このようなリスクを最小限に抑えるために、役員賠償責任保険と併せて、どのようなシチュエーションで損害賠償を請求されてもカバーできる保険商品に加入することをおすすめします。

    すでに保険に加入している方でも、「もう契約・加入しているから安心」とは言えません。定期的に保険の見直しを図り、専門家のアドバイスをもらいながら、役員や会社をいざという時に守ってくれる保険を選び、万全の対策を取るようにしましょう。

参考文献

[1]三井住友海上「会社役員賠償責任保険(D&O保険)のご案内」デジタルパンフレット

URL:https://www.ms-ins.com/business/indemnity/executive/compensation.html

[2]国税庁公式サイト「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取り扱いについて(情報)」

URL:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/160218/index.htm
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