脅迫すると禁固または罰金刑が科せられる
胸倉をつかむ、壁際に追い詰める、凶器となりうるものを向けるなど、暴力を加える真似をしたり、「会社や学校にいられなくしてやる」「家族を傷つける」「個人情報を拡散する」などと脅して被害者に恐怖の感情を植え付け、金品を奪ったり、意思に反する行為を強要する行為が相当します。音声などの証拠があるに越したことはないですが、なくても告訴することができます。脅迫罪が適用されると「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」刑が科せられます。
モラハラで生じる法的責任とモラハラ訴訟の判例
モラルハラスメントは、社会での地位や性別に関係なく、誰しもが受ける可能性のある人権の侵害です。被害内容によっては加害者個人のみならず、会社として法的責任を問われることになります。ここでは実際に起きた訴訟や判例を紹介します。
モラハラで問われる刑事責任や民事責任
パワハラやセクハラも総合的にモラハラと定義づけることもできます。ただし、パワハラが会社などでの役職や立場を利用して職務内容に関する強要が行われる点や、セクハラが異性からの性的な内容に言及されるのに対し、違う点が挙げられます。モラハラは一言でいえば「精神的な嫌がらせ」です。加害者本人にも危害を加えている自覚がないこともあります。「いじり」や「指導」というつもりで友達や同僚、同性など、対等であるべき人から個人の容姿や性格、趣味嗜好、習慣、癖などに対して否定的な言葉で貶められたり、職務において必要な伝達事項が伝えられなかったり、職場で孤立を強いられたりすることによって精神的疾患を発症したりすると、法的責任が生じることもあります。親権者や配偶者など近しい人からモラハラも近年問題視されてきています。
特に配偶者はお互いの家庭の習慣の違いや、家事育児の方針など多岐にわたることも多く、解決に時間がかかるケースもあります。被害内容によっては、下記参照のような複数の罪に問われ、賠償責任だけでなく、実刑判決が下ることもあります。(刑事責任・民亊責任)が問われます。
脅迫すると禁固または罰金刑が科せられる
胸倉をつかむ、壁際に追い詰める、凶器となりうるものを向けるなど、暴力を加える真似をしたり、「会社や学校にいられなくしてやる」「家族を傷つける」「個人情報を拡散する」などと脅して被害者に恐怖の感情を植え付け、金品を奪ったり、意思に反する行為を強要する行為が相当します。音声などの証拠があるに越したことはないですが、なくても告訴することができます。脅迫罪が適用されると「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」刑が科せられます。
怪我や精神疾患を負わせると禁固または罰金に
「殴る蹴る、あるいは鋭利なもので刺すなどの暴力的行為により怪我を負わされたり、言葉や行為で著しく傷つけられたことによる心的な疾患(うつ病や統合失調症など)を発症させる行為です。「被害者の健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を惹起したもの」が傷害罪であると、最高裁で定義されています。傷害罪と暴行罪は負わされた怪我の程度による違いと勘違いしてしまうかもしれませんが、似て非なるものです。医師の診断が必要になり、傷害罪が適用されると「15年以下の懲役、または50万円以下の罰金」刑が科せられます。
相手のひどく侮辱すると拘留または科料に
侮辱罪は、「事実に基づかず」「誰にもわかる形ではっきりと」「人を侮辱した」場合に成立します。名誉棄損との違いは、「事実に関わるものかどうか」です。例としては、加害者と被害者以外の不特定多数の人がいる公然の場で、「能無し」「馬鹿」「ブス」などと罵られたりすることが相当します。ネット上でも、メールなど1対1でやり取りされた場合には不成立になる可能性がありますが、複数の送信先に送られたときには、該当することがあります。侮辱罪が適用されると、拘留(1日以上30日未満、刑事施設で拘置される)または科料(1,000円以上1万円未満の罰金を支払う)を受けるケースがありえます。
相手の身体に攻撃を加えると懲役・拘留または罰金に
暴行罪は「人の身体に対し不法な攻撃を加えること」により相当すると定義づけられています。例えば殴る蹴るなどの行為で、無傷であったとしても、攻撃したという事実だけで暴行罪は成立します。直接の攻撃でなくても、近くに物を投げた、刃物を振り回したという行為でも、暴行罪に値することがあります。暴行罪が適用されると「2年以下の懲役・拘留、30万円以下の罰金」刑が科せられます。傷害罪のほうが重い刑罰になります。
性的自由を侵害する行為により懲役に
13歳以上の男女に、脅迫もしくは暴行を加えて性的自由を侵す行為を指します。わいせつとは、同意なしに陰部や乳房に触れたりするなど、姦淫以外の性的接触を指すため、被害者は女性に限りません。脅迫や暴行が、身体的にも精神的にも被害者の反抗が困難な程度である場合に相当します。被害者が13歳未満である場合には、脅迫や暴行がなくても成立します。強制わいせつ罪が適用されると、「6月以上10年以下の懲役」刑が科せられます。
相手の名誉を著しく傷つけると禁固または罰金に
会社や学校、または特定のコミュティなどにおいて、個人の事実を噂話として拡散したり、歪曲に伝聞することで、被害者の社会的な評価や地位を低下させる行為が相当します。被害者と加害者が同じコミュニティに属しているだけでなく、最近はネットやSNSで匿名の発信者によるものも多く流布しているため、削除や訂正、摘発が難しいことも問題になっています。名誉棄損罪が適用されると、「3年以下の懲役もしくは禁固、または50万円以下の罰金」刑が科せられます。
モラハラが発生しない環境づくりは企業法務のプロと共に
以前までは表面化しづらかったモラハラの問題ですが、年々その注目度は上がっており、訴訟に発展するケースも増加傾向にあります。その中で企業に求められているのは、モラハラが発生しない環境づくりができているかという点です。
「今までは問題なかった」というような些細な部分であっても、それを見過ごしておくことで取り返しのつかない事態に陥る可能性があります。常に企業法務へ詳しい弁護士への相談をできる環境をつくり、従業員からの訴えを受け止め、冷静に判断していくことが何よりも重要です。
顧問弁護士をつけるという手段もありますが、規模の小さな企業ではそれも難しい場合もあります。弁護士への無料相談サービスなどを活用し、対処をしていくようにしましょう。
企業に責任を追及したモラハラ訴訟と判例
ここでは実際にあったモラハラ責任と企業の責任を追及する判例を紹介しています。
国・京都下労基署長(富士通)事件(大阪地裁平22.6.23判)
被告:署長及び会社 原告:社員 賠償:療養補償給付不支給処分の取り消し
会社の女性同僚社員数名から、長期的に、陰口をたたかれる、無視をされるなど、精神的ないやがらせを受け続けました。また、嘘つきであるなどの悪い噂を社内のみならず、業務支援している他社にまで流されるなど業務に支障がでるいじめにとどまらず、男性社員からも殴る蹴るの真似を複数回される身体的な攻撃まであり、上司の目前で行われた際にも上司から男性社員に注意の声がかからなかったため、孤立感に苛まれた結果、「不安障害、抑うつ状態」を発症したことを認め、療養補償給付不支給処分の取消しを求めた事案です。
本件は、賠償責任を問う民事裁判ではなく、京都下労基署長が下した不支給処分の取消訴訟であったため、賠償金額などはありませんが、会社が職場内のいじめや嫌がらせに対応せず、放置していた場合、職場環境配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われうる可能性がありますので、聞き取り調査や防止策を講じることは必要です。
アジア航測事件(大阪地裁平13.11.9判)
被告:被告:加害者乙及び会社 原告:社員X 賠償:慰謝料60万円
こちらは、加害者本人だけでなく、使用者の事後の対応が適切を欠いたことで使用者にも賠償責任があると認められ、同時に事件起因による長期休業中の解雇を無効とした例です。
加害社員乙が、社内同部署の女性社員であるXの顔面を殴打し、顔面挫創・頸椎捻挫の傷害を負わせたことで、その後、頸部・腰部痛や手足のしびれなどの後遺症が残ったとして、慰謝料と治療費を、加害者乙と、会社に求めた事案。また、本件暴行から約二年半休業している間に解雇されていたことに対する地位の確認と、不当な解雇期間の賃金も求めていました。
判決は、事後の会社の対応が途中から事務的になり、被害者Xの訴えに真摯に向き合わなかった結果、被害者の精神的負担が重くなったため、治療費の6割相当の負担義務が生じました。また、解雇の有効性については、被害者Xが事後行った診断書の送付や、労災手続きへの協力を求めたこと、加害者乙を刑事告訴したことなどを、就業規則である「著しく職務怠慢か又は職務成績劣悪でその他会社又は同僚の迷惑となる時」に該当して解雇したという会社の訴えを退け、被害者の事後の会社への行動は、当然のものとしたため、解雇は権利の濫用であるとされ、無効となりました。
誠昇会北本共済病院事件さいたま地判(平16.9.24)
被告:加害准看護師Aと病院 原告:被害者Xの家族 賠償額:慰謝料1,000万円
こちらは、被害者が従事する以前から同加害者による嫌がらせが院内で横行した旨を病院側がどの程度把握し、抑止や防止を行ったかを焦点にして、損害賠償の額が決定した例です。
加害者である先輩看護師Aは、看護学校に通学しながら准看護師として働いていた被害者にXに対して、無理やり遊びに連れ出したり、学校の試験前に朝まで飲み会につきあわせたりしていました。勤務時間外にもAの個人的な用事で呼び出したり、家事などの雑用をさせたり、Xの交際関係の邪魔をしたり、勝手に携帯電話を使用するなどプライベートを著しく侵害する嫌がらせを3年という長期にわたって繰り返していました。これらのAによる嫌がらせが、Xの自殺の原因であり、A は、X が自殺を図るかもしれないと考えることは可だったと認めるのが相当である」として、Aに対し慰謝料として1.000万円の損害賠償額を遺族に支払うよう判決が出ました。
AとXの雇用主である病院に対しては、AらのXに対するいじめを認識することが可能であったにもかかわらず、防止する措置をとらなかった安全配慮義務違反の債務不履行が認められるとし、Aが支払う慰謝料1000万円のうち、500万円の限りにおいてAと連携して支払うという判決が下りました。
(株) エヌ・ティ・ティ・ネオメイト事件(大阪地判平24.5.25)
被告:会社 原告:別件での加害社員X
こちらは、加害者の処分の可否について、譴責処分とこれに伴う減給という処分が、会社の職権濫用ではなく、相応の措置であると判決された例です。
原告Xは、出向した会社で派遣社員として働いていたBと備品のメンテナンスのことで指摘されたことを機に、Bに対して「辞めてしまえ」などの暴言や、椅子を蹴るなどの暴行を行ったため、会社から譴責処分とされていました。また、給与のうち、成果加算給からの減額もされていましたが、これらの処分が不当であるとして、会社への訴えをおこしたうえで、別件のトラブルに対しての損害賠償も提起しました。しかしながら、会社の譴責処分と減給に「懲戒処分のなかでも軽いものである」ため有効であるという判決がされています。懲戒処分を行う場合に必要なことは、前もって就業規則に懲戒の種別・事由を定めておくことです(国労札幌地本事件 最3小判昭和54.10.30民集33巻6号647頁)。
また、「適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが取られていること」を要すること(フジ興産事件最2小判平成13.10.10労判861-5)も必要とされています。パワハラ及びモラハラ行為を就業規則の懲戒事由に定めている会社はまだ多くはないですが、このように懲戒処分を行った社員からの訴訟も視野に入れて、規則の整備をすることで、本件のように処分が相応であると判決されるケースもあります。
賠償責任保険で補償される範囲が重要
モラハラ事例で補償されるのは、モラハラに関する補償が組み込まれている損害賠償責任保険に加入している法人になります。モラハラは、パワハラやセクハラ、マタハラなど、明確に区別されているわけではないため、20以上も存在するといわれる細かなハラスメント事例を補填対象としている保険を選ぶことが大切です。
どのような事案に対して保証を行っているかは、「ハラスメント保険」を契約している保険会社に確認する必要があります。事例によっては賠償額が高額になったり、数カ月~数年と長期間の賠償になることもありうるのが、ハラスメント訴訟です。
会社の規模や留保されている資産によっては、裁判にかかる訴訟費用よりも痛手となります。ハラスメント保険と銘打って扱っている中でも、賠償金の保証を行うものを選ぶ点が大事です。ハラスメントが原因で起こる従業員のメンタル疾患、もしくは身体的な怪我などの治療費などさまざまなケースがありえます。また、出勤困難な被害者の長期休業の賃金保障や、退職へと追い込まれた場合の賠償金の補填ができるものを選ぶのは、多くの中小企業の加入が近年増加していることから見ても、必要なことではないでしょうか。
精神的なハラスメントに対する被害を訴えるモラハラ。役員や管理職相手に訴訟を起こすことも増えてきました。そういった、雇用に関する不当行為が原因で訴訟に発展した場合、示談金・和解金・弁護士費用など多額の費用がかかります。保険会社によってはこれらの費用を補償する保険を取り扱っているところがありますので各保険会社を一覧でご紹介します。
保険会社と保険商材 | 主な補償内容 | 加入・契約方式 |
---|---|---|
三井住友海上 【雇用慣行賠償責任補償】 |
従業員へのハラスメントや不当解雇などに起因する損害賠償責任を補償 | 選択+組合せ |
東京海上日動火災保険 【超Tプロテクション】 |
パワハラ・セクハラ・マタハラなど管理責任や不当解雇の際に、企業、役員や管理職の人たちが法律上の損害賠償責任を負わなければならない場合に被る損害に対して補償 | 選択+組合せ |
AIG損保(旧AIU保険) 【マネジメントリスクプロテクション保険】 |
取締役や監査役などの個人がその地位に基づいて行った行為(不作為も含む)に起因して、損害賠償請求された場合の、法律上の損害賠償金および争訟費用の補償 | 選択+組合せ |
共栄火災 【雇用トラブルガード】 |
セクハラやパワハラなどのハラスメントや、不当解雇など雇用に関する不当行為により被保険者に法律上の損害賠償責任が発生した場合、その損害に対して補償 | 基本補償 |
あいおいニッセイ同和損保 【雇用慣行賠償責任保険(EPL保険)定型プラン】 |
セクハラ・パワハラや、差別、不当解雇などの理由で従業員から法律上の損害賠償請求が発生することで企業や役員が被る損害を補償 | 基本補償 |