福祉事業

福祉事業の賠償責任保険の補償範囲とは?

人の数だけ存在する事業リスク

高齢者の介護や病気の患者の世話、障がい者のケアなど、色々な事情を抱える人々と直に接する福祉事業では、事業リスクも多種多様で、賠償責任保険の補償も広範囲に及ぶことが特徴です。

賠償責任保険は?

福祉事業に関わる事業リスクと賠償責任

福祉事業者を対象としている賠償責任保険では、事業リスクを包括的にカバーするものが人気です。

福祉事業における事業リスクやトラブルには、例えば介護職員のミスによる入浴介護や食事介護中の事故、提供した食事が原因となった食中毒、販売した介護用品の欠陥によって生じた利用者への被害、介護施設の老朽化や備品の不備に起因する事故、さらには入居者同士のケンカなど、実に多くの内容が考えられます。しかも、福祉事業における事故は大きな争訟に発展する可能性もあり、それらの損害賠償責任について、費用面や法律面などから幅広く補償してくれる賠償責任保険は、非常に重要なリスク管理の手段です。

福祉事業賠償責任保険の対象となるサービスとは

「多種多様なサービス事業」

介護保険法・障害者総合支援法・社会福祉法に基づく指定業者(福祉事業者)に関わる、賠償責任保険の対象サービス例では、以下のようなものがあります。

介護保険法に定められるもの

  • 居宅サービス
  • 介護予防サービス
  • 地域密着型サービス
  • 地域密着型介護予防サービス
  • 介護予防支援、包括的支援事業
  • 施設サービス
  • 居宅介護支援
  • 居宅介護予防支援

障害者総合支援法に定められるもの

  • 障害福祉サービス、施設障害福祉サービス
  • 相談支援事業
  • その他の関連事業

福祉事業賠償責任保険の対象となるケース

三井住友海上の福祉事業者総合賠償責任保険をサンプルとして、福祉事業賠償責任保険の対象となるケースの例をご紹介します。

施設損害補償

【対象事故】

保険に加入している福祉事業者が、所有・使用・管理している、事務所や老人ホーム、養護施設といった保険対象の施設において、建物の構造上の欠陥や不具合、管理不行届などを原因として発生した偶然の事故。

【事故例】

  • 階段に備え付けの手すりが外れて、入居者が転落し足を骨折した。
  • ボルトの腐食によって事務所の看板が落下して、訪問客が下敷きになった。
  • 施設火災が発生した際、非常口の扉が開かず、逃げ遅れた人が死傷した。

業務遂行損害補償

【対象事故】

保険に加入している福祉事業者や、もしくは事業者に雇用されて保険対象事業に従事している正社員、契約社員、パートアルバイターなどによる、仕事中のミスやヒヤリハットを原因として発生した偶然の事故。

【事故例】

  • 介護職員が要介護者の入浴をサポートしている時、誤って熱湯をかけて火傷を負わせた。
  • 訪問ヘルパーがベッドから車椅子へ移動する高齢者の介助中、バランスを崩して高齢者の上に転倒し、高齢者が手を骨折した。

生産物損害補償

【対象事故】

福祉事業者が、保険対象となる業務の一環として製造・販売した車椅子などの介護用品や、施設内の厨房で調理・提供した食事、遠足の際に配った弁当などの飲食物といった、財物を原因として発生した偶然の事故。

【事故例】

  • 老人ホームの施設内で昼食として提供したカレーに雑菌が混入しており、集団食中毒が発生した。
  • 製造した車椅子の車輪の取付に不備があり、車椅子で移動中に車輪が外れ、転倒した利用者が顔面に大きなケガを負った。

仕事の結果損害補償

【対象事故】

老人ホームにおける日々の介護業務や、デイサービスで要介護者宅を訪問した際に行うサービスなど、福祉事業者が保険の対象業務である仕事をしたことが原因となって、思いがけず発生してしまった偶然の事故。

【事故例】

  • 老人ホームにおいて、従業員が入居者の衣類やベッドのシーツなどをまとめて洗濯したが、漂白剤がきちんと洗い流されておらず、乾燥後にそれを利用した入居者の肌に炎症が起きて治療しなければならなくなった。

受託財物損害補償

【対象事故】

福祉事業者が、保険対象となっている施設内で保管する他人の財物や、福祉事業者の管理下に置かれている他人の財物が、何らかの原因で破損・汚損したり紛失したり、或いは盗難されたというような場合の事故。

【事故例】

  • 入浴前に要介護者の眼鏡を預かっていたが、誤ってそれを落としてレンズが割れた。
  • 売店でジュースを買ってきて欲しいと入居者に頼まれてお金を預かった職員が、不注意によってそのお金を誰かに盗まれてしまった。

支援事業損害補償

【対象事故】

居宅介護支援業務、介護予防支援業務、相談支援業務、包括的支援事業といった、支援業務における人的ミスが原因となって発生してしまった、他人の身体障害や、財物の損壊などを伴わない、純粋な経済的損失。

【事故例】

従業員がケアプランを作成したものの、その内容に不備があって、利用者が本来受けられるはずのサービスを受けらなかった。そして、それに伴って利用者にもたらされた経済的損失に関して損害賠償請求を受けた。

人格権侵害補償

【対象事故】

福祉事業者やその他の人間が行った、以下の不当行為。

  • 不当な身体拘束による、自由の侵害、もしくは名誉毀損。
  • 口頭、文書、図面や映像、またはそれらに類する表示行為による名誉毀損や、プライバシーの侵害。

【事故例】

  • エレベーターが異常停止し、中に閉じ込められた利用者がショックを受け、それに対する賠償請求を受けた。
  • 施設のチラシに、利用者の名誉を毀損する文言が記載されており、精神的被害に対する補償を請求された。

被害者治療費等補償

【対象事故】

「施設損害補償・業務遂行損害補償・生産物損害補償・仕事の結果損害補償」において、他人に身体障害を与えた上、被害者が事故発生日から180日以内に入院し、重度後遺障害を被ったり死亡したりした場合。

【事故例】

バリアフリー改装用の商品として、自宅の階段に取り付ける手すりを製造・販売したが、部品の取付に不備があり、手すりが折れて利用者が階段から落下し、首の骨を骨折、下半身に重度のマヒが残ってしまった。

初期対応費用補償

【対象事故】

「施設損害補償・業務遂行損害補償・生産物損害補償・仕事の結果損害補償」において、損害の原因となる事故が発生した際、被保険者が事故現場の保存や事故調査など、必要と認められる緊急対応に使った費用。

【事故例】

  • 老人ホームの入居者の間で集団食中毒が発生して、直ちにその原因究明をする為に、第三者機関に依頼して、厨房をはじめとする老人ホームの全施設を調査した上で、疑わしい食材や調理器具などを全て処分した。

訴訟対応費用補償

【対象事故】

保険金として争訟費用が支払われる場合において、日本国の裁判所に提起された訴訟に関して負担した、従業員の移動費や超過勤務手当、訴訟に必要な文書の作成費、事故を再現して原因を調査する為の費用など。

【事故例】

老人ホームに入居していた高齢者が、誤嚥性肺炎を起こして死亡したが、遺族から介護士の食事の介助方法に問題があったことが原因だとして訴えられた。その為、その訴訟に必要な文書の作成を弁護士に依頼した。

福祉事業者の責任

福祉事業者がどれだけ注意しても、相対する人がいる限り、事故のリスクを消し去ることは不可能です

  • 01

    事故を起こすのが事業者側とは限らない

    入居者が施設内でいきなり暴れたり、高齢者の体調が急に悪化したり、予想外の事故のリスクは必ず存在します。

  • 02

    業者に責任がなくても訴えられる可能性

    事故で大切な身内を失った遺族は、福祉事業者に責任があると思い込み、訴訟を起こすことがあります。

  • 03

    賠償責任保険でリスク管理

    常にリスクがあるからこそ、福祉事業者には利用者や従業員に対して、安全な環境と非常時の補償を用意する責任があります。賠償責任保険は、その為に絶対不可欠なリスク管理の手段といえるでしょう。

参考文献

【PDF】三井住友海上火災保険株式会社,「福祉事業者総合賠償責任保険のご案内」(https://www.ms-ins.com/pdf/business/indemnity/fukushi.pdf

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