特集 従業員への損害賠償は 政府労災だけでカバーできるか
労災隠しに負けるな!会社の違法行為には毅然とした態度を(イメージ)

労災隠しに負けるな!
会社の違法行為には毅然とした態度を

仕事に起因するケガや病気は、一般に労働災害として認定されます。ところが中には、何らかの事情により、労働災害の発生を意図的に隠そうとする事業者もあるようです(労災隠し)。労災隠しは違法行為。発覚すると会社に罰則金が課せられる犯罪行為です。労災と判断される傷病を被った場合には、遠慮なく会社に対して労災申請を行うことが大切です。それでも会社が不誠実な対応をする場合には、自ら労働基準監督署に赴いて相談をしましょう。

労災隠しと認定される5つの項目

労災事故が発生した際、以下の5つのいずれかに該当すると、事業者は労働基準監督署から労災隠しと認定されます。

労働基準監督署への報告漏れ

労災事故発生の事実を事業者が認識していたにも関わらず、これを労働基準監督署へ申告しなかった場合、労災隠しと認定されます。労災事故に遭った従業員に対し対価を支払って口止めをした場合も、労働基準監督署は労災隠しと認定します。

労働基準監督署への報告遅れ

労災事故が原因で、被害者たる従業員が4日以上の休業を余儀なくされた場合、事業者は「遅滞なく」労働基準監督署へ事故の事実を報告しなければなりません。これを怠った場合、労働基準監督署は労災隠しと認定します。

労働基準監督署への虚偽申告

労災事故の報告について、事業者は虚偽のない事実を労働基準監督署に伝えなければなりません。事業者が事実とは異なる報告を行った場合、労働基準監督署は労災隠しと認定します。

労災保険への未加入

すべての事業者は、労災保険への加入を義務付けられています。よって労災保険に未加入の事業者において、従業員が業務に関連してケガ・病気を生じた場合、たとえ労働基準監督署へ「遅滞なく」報告したとしても、労働基準監督署から労災隠しと認定されます。

健康保険証を使用しての治療命令

労災を原因としたケガや病気の治療には、労災保険を使わなければなりません。よって、事業者の指示・命令によって健康保険を使って被害者が治療を行った場合、労働基準監督署は労災隠しと認定します。

なお、労災隠しを認定された事業者に対しては、50万円以下の罰金刑が科されます。また、事態の内容によっては、事業者が警察から取り調べを受けることもあります。加えて、被害者である従業員から損害賠償をめぐる訴訟を起こされることもあります。
目先の損失回避のために労災隠しを行ったとしても、長期的には百害あって一利もありません。労働者のおかげで会社が存続していることを謙虚に受け止め、万が一労災事故が発生した場合には、制度にしたがって速やかに適切な報告を行いましょう。

会社が労災隠しを行う3つの理由

百害あって一利もない労災隠しですが、事業者には事業者なりの理由があって労災隠しを行うことがあります。労災隠しの背景にある、会社側の3つの事情を見てみましょう。

会社が支払う保険料が上がってしまうため

労災保険の保険料は、全額会社負担です。従業員の給与から労災保険の保険料が天引きされることはありません。
労災申請が多ければ多いほど保険料が上がるという事情を背景に、会社側は、経費節減のために労災事故の発生を隠す例があります。

事業に支障が出てしまうため

労災事故の発生が取引先に知られてしまうと、以後の事業に支障が生じる可能性があります。もとより、労災事故発生時に入る労働基準監督署の調査次第では、一部業務に停止命令が下されるかも知れません。
業務への影響に鑑み、あえて労災隠しを行う事業者もあるようです。

労災制度に関して詳しくないため

労災事故が発生した際の具体的な手続き等を会社が知らない、という事情もあるようです。事故を隠そうとする意図はないものの、手続き方法が分からない状況の中で次なる仕事が蓄積し、やがて手続きを失念するといったケースです。
そのような状況の中で、事故にあった従業員自身にも労災の認識が薄い場合、労災事故の存在自体が雲散霧消してしまうことがあります。

会社の労災隠しを見抜く6つの方法

業務に関わる行動が原因で事故や病気に遭った場合、原則的には労災が認定されます。よって、自身の事故・病気が労災であるか否かを判断することは、比較的容易です。労災の可能性を感じた場合には、遠慮なく会社に申告しましょう。

しかしながら、実際に労災の可能性を会社に伝えたとしても、会社側が次のような回答をしてくることがあります。以下の6つのいずれかに該当した場合、会社は意図的に労災隠しを行おうとしている可能性があります。

「非正規雇用の従業員は労災が付かないよ。知らないの?」

労災認定において、雇用形態はまったく関係ありません。正社員はもちろんでが、契約社員であろうとアルバイトであろうと、パートであろうと日雇いであろうと、雇用形態に関係なく労災認定が行われます。

「残念だけど、ウチの会社は労災に加入していないんだ」

労働者を1名でも雇用している事業者は、かならず労災保険に加入する義務があります。もし本当に事業者が労災保険に加入していない場合、未加入の時期をさかのぼって保険料全額の支払いが課せられます。
万が一、事業者が未加入時期の保険料を支払えない場合、状況に応じ会社の財産が差し押さえられます。

「とりあえず普通に健康保険証で治療してきて」

業務中に生じたケガや病気を健康保険で治療することは、違法です。かならず労災保険で治療をします。
これを知らずに、つい健康保険で治療を受けてしまった場合には、改めて病院へ赴いて労災保険への変更が可能かどうか相談してみましょう。不可能と回答された場合には、いったん健康保険を外してもらってください。一時的に全額自己負担で治療費を支払ったうえで、後日、労災請求をする流れとなります。

「自分の不注意で起こった事故には、労災保険は出ないよ」

たとえ事故の原因が労働者個人の不注意だったとしても、会社からの指示で行っている仕事中に発生した事故ならば、労災が認定されます。
なお、通勤途中に起こった事故についても労災認定されます。通勤は会社命令に従うための行為なので、業務の一環とみなされるからです。

「治療費は会社が払うよ」

労災事故に関する治療費は、会社ではなく労災保険が支払うことになります。よって、たとえ会社からお金を支給されたとしても、これを治療費に使うことはできません。口止めの意味も込め、会社は治療費を上回るお金を支払うこともありますが、受け取りは断固として断ってください。併せて、労災申請と労働基準監督署への報告を会社に求めるようにしましょう。

「ウチは元受だから、自分が所属してる会社で申請して」

下請け業者を使った現場で労災事故が発生した場合、労災申請をするのは元受け業者となります。
なお、以後の受注に悪影響があるという理由で、下請け業者が元受け業者への申請を遠慮した場合、労働基準監督署から労災隠しとして認定されます。

労災隠しに対する従業員側の対処法

会社が労災申請に協力してくれない場合、会社は労災隠しをしていることになります。交渉してもらちが明かないと判断されたならば、労働者自らが労働基準監督署に赴き、事態の説明をしましょう。
加えて、労働基準監督署から自身の補償に該当する書類を受け取り、企業記入来を未記入のままで労災申請してください。企業からの添付書類がなくとも労災申請をすることが可能です。
また、そのような中で治療を受ける際には、後の手続きをスムーズにするためにも、労災指定病院を選択したほうが無難でしょう。

なお、労災保険は退職してからも申請が可能ですが、申請内容により時効がある点にも注意が必要です。

労災保険の補償の種類と時効
  • ・療養補償…2年
  • ・休業補償…2年
  • ・傷病補償…時効なし
  • ・障害補償…5年
  • ・遺族補償…5年
  • ・葬祭補償…2年
  • ・介護保障…2年

傷病補償が目的の労災保険には、時効がありません。補償に該当するにも関わらず未申請の場合には、会社に相談するか、もしくは自分で申請するようにしましょう。

労災保険金の受給に加え、会社へ損害賠償請求することも可能

労災が認定されて保険金を受給した場合でも、その受給額に納得ができない場合には、会社に対して損害賠償請求をすることができます。

損害賠償請求ができる範囲

損害賠償請求ができるのは、労災保険だけでは補えなかった範囲に限ります。代表的な例が慰謝料です。
慰謝料とは、被害に対する精神的苦痛等に支払われる賠償ですが、労災保険の補償範囲の中に慰謝料は含まれていません。被害への精神的苦痛に対して会社が誠意を見せない場合には、会社を相手に慰謝料請求の訴訟を起こすことも一つの方法です。
ほかにも、逸失利益(被害がなければ生じるはずだった将来の収入)の補償は、労災保険だけでは手薄いことがあります。労災から支払われる逸失利益の金額に納得ができない場合、会社に対して賠償請求をしても良いでしょう。

訴訟のための段取り

労災をめぐり、会社への賠償請求を自力で行うことは困難と考えてください。かならず弁護士を立てるようにしましょう。
可能であれば、労災事故に強い弁護士に仕事を依頼するようにしたいものです。

被害者が複数いる場合には集団訴訟を検討

同様の被害者が複数いる場合には、一人で訴訟を起こすのではなく、集団で訴訟を起こしたほうが有利になることがあります。一人だけの被害者から収集された証拠よりも、複数の被害者から収集された証拠のほうが、裁判所には説得力があるからです。