保険料はアップするが企業イメージはダウン
労災に認定されると、「保険料が上がる」ことがデメリットのひとつ。このほかにも、ブランドイメージの低下や、労働基準監督署の監査対象になるなど、さまざまなデメリットがあります。
労災認定の多い企業が受けるダメージ
企業にとって労災は、できるだけ認めたくないというのが正直なところでしょう。それは、労災認定によるデメリットがあるためで、「労災隠し」の問題にもつながる点です。ここでは、労災認定によるデメリットについて紹介します。
保険料はアップするが企業イメージはダウン
労災に認定されると、「保険料が上がる」ことがデメリットのひとつ。このほかにも、ブランドイメージの低下や、労働基準監督署の監査対象になるなど、さまざまなデメリットがあります。
労災保険の保険料は「メリット制」と呼ばれる形式が導入されています。これは、直近3年間の労災給付状況を見て、保険料率を上げ下げするという形式。要は、申請が多いほど保険料が上がり、逆に少なければ保険料は下がります(自動車保険と同じ形式です)。労災保険の保険料は全額企業負担となっていますから、保険料が上がるのは経費が増えるというデメリットになるのです。
大きな労災事故が発生した企業、あるいは労災が続いている企業は、いわゆる「ブラック企業」のレッテルがはられ、ブランドイメージは下がります。マスコミで報じられることもあるでしょうし、インターネットの掲示板やSNSでも悪評が流れるようになります。
企業イメージの低下は、取引先との取引停止や売上減少、あるいは従業員の集団退職など、もたらされる損害は甚大です。
労災認定をしてもらうために必要な書類の作成は、基本的には負傷した従業員が行うものですが、企業でそろえなければならない書類等もあることから、一般的には企業が行っています。
こうした書類作成のほかにも、労働基準監督署による調査や現場検証の立会も生じることもありますし、仮に従業員が企業を相手取り裁判を起こされたら、その対応も必要になってきます。
労働基準監督署では、実際に労災が起きていない場合でも抜き打ちで調査をすることがあります(「臨検監督」といいます)。労災認定が多いと、この調査対象になりやすくなります。調査では労働基準監督官が、勤務実態や労働関係帳簿の確認、経営者や現場にいる従業員へのヒアリングなどを行い、何らかの違反事項があれば改善指導または指示をするなど、労力と時間が要されます。
保険会社と保険商材 | 主な補償内容 | 加入・契約方式 |
---|---|---|
三井住友海上 【ビジネスプロテクター】 |
業務中の事故による損害 海外出張中の事故による損害 仕事の結果の事故による損害 使用者賠償責任 |
基本補償 |
東京海上日動火災保険 【超ビジネス保険】 |
施設・業務遂行中の事故 従業員への法定外の補償 使用者賠償責任 |
選択+組合せ |
損保ジャパン日本興亜 【ビジネスマスター・プラス】 |
業務中の事故による賠償 死亡・後遺障害 通院・入院・手術 |
選択+組合せ |
AIG損保(旧AIU保険) 【スマートプロテクト】 |
業務中・通勤中の事故によるケガ 労災保険の給付が決定した自殺行為によるケガ |
選択+組合せ |
日新火災海上保険 【ビジサポ】 |
仕事中の行為が原因で生じる事故 施設が原因で生じる事故 |
選択+組合せ |
明治安田損保 【施設所有(管理)者賠償責任保険】 |
施施設の内外で行なう業務遂行中に生じる偶然な事故・損害 建設・土木工事等の請負業者の業務遂行中に生じる偶発的な事故 |
基本補償 |
共栄火災 【商売の達人(K-Biz)】 |
業務遂行中に生じた事故・損害 施設の管理不備による事故・損害 |
基本補償 |
チューリッヒ 【チューリッヒ企業総合賠償責任保険】 |
身体への障害に対する賠償損害 人格権侵害など、人・精神に対する障害への賠償損害 |
基本補償 |
あいおいニッセイ同和損保 【タフビズ 事業活動総合保険】 |
施設の所有・管理、業務遂行に起因する事故による賠償責任 代表者の法律上の損害賠償責任 |
選択+組合せ |
大同火災海上保険 【労働災害総合保険】 |
通勤災害補償特約 退勤災害不担保特約 |
特約 |
企業には社員が円滑に働ける環境作りへの取り組みが求められますが、その一方で労災認定によって企業イメージが低下したり、高額な賠償責任が発生したりといった、リスクに対して備えることも不可欠です。
労災認定となる事故には、日常業務中のケガだけでなく、通勤途中の事故や海外出張中の病気なども含まれ、すべてを完全に防ぐことは残念ながら現実には不可能です。
労災認定による企業ダメージを軽減させるためにも労災や使用者賠償責任補償に対応した保険によるリスクコントロールは欠かせないでしょう。保険会社各社の賠償責任補償内容についてご確認のうえ、検討してください。
労災に認定される条件や事例を確認
労災をめぐる裁判は、いつの時代にも存在しています。単なる事故か、それとも労災か。ここで改めて、労災の定義や認定条件について確認しておきましょう。
労働安全衛生法第2条で規定されている労災の定義は、「業務が原因で労働者がケガや病気、死亡した場合」となっています。
仕事で使用する設備や機械のトラブルが原因でケガをしたという場合など、従業員に故意がなければ労災に認定されるでしょう。また就業中でなくとも、長時間労働が原因で自宅で倒れたというケースも認定されます。要は、ケガや病気と業務とに因果関係が認められたら、労災なのです。
通勤中の事故で、ケガや亡くなった場合にも労災として認められます。ただし、これも業務との因果関係が認められる場合に限ります。例えば、仕事帰りに居酒屋へ立ち寄り、そこで転倒してケガをしたという場合、「通勤中」ではないため認定されないこともあります。
企業にとってデメリットも多い労災認定。だからといって、労災を隠すのは法律違反です。労災隠しが発覚した企業は、労働安全衛生法に違反したとして書類送検され、50万円以下の罰金が課せられます。
このほか、従業員が労災認定をめぐる裁判を起こすことも考えられますし、それがマスコミなどで報道されると企業イメージの低下につながるなど、さまざまなリスクが想定されます。
事前から対処療法的な対策をしておく
発生した被害を最小化し、再発防止策を講じる。
これはBCP(事業継続計画)の視点から、どの企業も取り組んでいます。
事故は、それでも発生してしまいます。
一番必要な対策は、事前から事故が発生した時のことを想定しておくことです。
賠償責任保険は、労災にも対応している保険なので、おすすめです。
従業員に支払う賃金総額、保険会社によるリスク診断評価、業種によっては会社の年間売上金(請負金)等で契約金額は異なりますが、リスクコントロールとして最適です。
細かく見れば、各社の商品で補償内容に違いがあるので、自社事業に適した保険を確認してみてください。