HOME » 【社内リスク】訴訟が急増中!使用者責任の事例とは

【社内リスク】訴訟が急増中!使用者責任の事例とは

会社で従業員が交通事故などを起こすと、企業の使用者責任が問われて、被害者から損害賠償を請求される可能性があります。ここでは具体的な事例を通して使用者責任について詳しく紹介しています。

イメージ

使用者責任とは

従業員の過失責任を企業が背負う「使用者責任」義務

企業には従業員の行為に対して責任を負う使用者責任があります。使用者責任とは、業務またはそれに付随することで、第三者に危害を加えた場合、被害者に対して事業主が賠償責任を取ることです。

従業員同士のセクハラ・マタハラや、交通事故や障害事件で外部の人にケガを負わたり、職権を乱用して詐欺や不正行為を働いたりして第三者に損害を与えると、被害者は企業に対して損害賠償を請求することができます。

使用者責任賠償責任保険の必要性

企業にとって使用者責任保険は、万が一の際に従業員や会社を守る大きな盾となります。しかし、なかなか実際にトラブルが起こるまで、自社が抱えるリスクに気付いていない事業者も少なくないのが実状です。

そこで、使用者責任保険がどうして企業経営の安定を目指す上で必要なのか、その理由について考えておきましょう。


使用者責任保険が企業に不可欠な理由

使用者責任保険の重要性や必要性を考える上で、「企業が従業員の健康を守ることは当然の義務であり、業務上発生したトラブルの損害については、企業が負わなければならない」という、日本社会の通念は無視できません。

またその一方で、従業員が会社に様々な責任を負わせる方法がネットなどで頻繁に語られるようになり、企業は社外の問題や業務上のトラブルから従業員を守るだけでなく、場合によっては社内の従業員からも会社を守らなければならなくなっています。


経済的リスクに対する備え

企業に対して労災訴訟が与える経済的なダメージは、非常に大きくなる恐れがあります。

事実、損害賠償金は年々増額傾向にあり、賠償金額が数千万円、いっそ数億円にまで上った判例も少なくありません。

このような経済的損失は、企業の経営を維持する上で極めて重大なリスクになります。しかし、日本政府の労災保険による補償額では、そこまでの賠償金をまかなうことは現実的に不可能です。すると、不足分は企業が負担することになりますが、場合によってはそのせいで経営自体が破綻してしまう可能性さえあるでしょう。

そこで、使用者責任保険によるリスクヘッジを行うことは、現代の企業にとって基本と言えるかも知れません。

また、労災訴訟ではケガや病気に対する治療費だけでなく、慰謝料の支払いが必要となることもありますが、労災保険では慰謝料が補償されません。

繰り返しますが、使用者責任保険は万が一の際に会社と従業員の、両方を守る、とても大切な盾といえるのです。

使用者責任保険に加入する際の注意点

労災保険の不足分を補う為に、使用者責任保険に加入する場合、必ず注意しておかなければならないポイントも存在します。


保険金の限度額について確認する

使用者責任保険に加入する場合、支払われる保険金の限度額をきちんと確認しておかなければなりません。

労災訴訟では莫大な額の賠償金が必要になる判例も少なくなく、リスクに備える上で数億円単位の保険金を設定しておくことが賢明です。

また、使用者責任保険の保険金支払限度額をチェックする上で、「1名当たり」の限度額と、「1災害当たり」の限度額を、それぞれ見ておくことが欠かせません。

「1名当たりの限度額」とは即ち、従業員1人に対して支払われる保険金の限度額であり、「1災害当たりの限度額」とは、その労働災害について支払われる保険金総額の限度額です。

例えば、1災害当たりの限度額が3億円であったとしても、1人当たりの限度額が5千万円であれば、1人の従業員から提起された労災訴訟において支払われる保険金は、5千万円しかありません。

近年の判例では、従業員1人当たりに対する賠償金の額が億単位になることもあり、必ず1名当たりの保険金において、十分な金額を設定しておくようにしましょう。


後遺障害や死亡に対して一時金が支払われる保険もプラス

使用者責任保険は、原則として労災訴訟が発生した際に効果を発揮する保険であり、例えばトラブルが発生した際に一時金が支払われるというような補償は含みません。

しかし、労災訴訟に発展するしないに関わらず、もしも従業員が業務上の理由で死亡してしまった場合、会社は遺族に対して見舞金を渡すことが一般的です。また、もしもここで見舞金を支払わなければ、それこそ深刻な労災訴訟に発展してしまう恐れもあるでしょう。

そこで、従業員の死亡時や、従業員が後遺障害を負ってしまった場合に、見舞金などを一時金によって補償してくれる保険にも、併せて加入しておくことが大切です。

  • セクシャルハラスメント(イメージ)

    セクシャルハラスメント

    セクハラの定義と企業に求められるセクハラ対策

    セクシャルハラスメントとは異性に対しての性的嫌がらせのことで、女性が男性に対して性的嫌がらせをする場合もセクハラに含まれます。嫌がらせの内容によって、二つのパターンにわけられます。セクハラ被害に遭うと、被害者は精神的苦痛などによって企業にいづらくなり、退職を余儀なくされるケースも少なくありません。企業に責任が問われる可能性がある中、どう向き合っていけばいいのでしょうか。

    男性上司から性的関係を迫られる対価型セクハラや、女性の前で卑猥な話をする環境型セクハラなど、企業では様々なセクハラが起きています。対価型と環境型の代表的なセクハラの事例を紹介しています。

  • パワーハラスメント(イメージ)

    パワーハラスメント

    パワハラの定義と企業に求められるパワハラ対策

    パワーハラスメントとは権力や地位のある人が、自分よりも目下や力の弱い者に対しての嫌がらせやいじめです。嫌がらせの内容によって、二つのパターンにわけられます。被害の程度は軽いものから根深いものまで様々ですが、悪質な場合、被害者を精神的に追い込んでいきます。パワハラが原因でメンタルの病気になると、企業に賠償責任を追及するケースも少なくありあせん。パワハラに備えて、企業はどのように対応していったらいいのでしょうか。

    パワハラ被害に遭うとそれが原因でうつ病を発症する人や、退職せざるを得なくなる人が少なくありません。企業で起きている様々なパワハラを、事例を通して見ていきます。

  • マタニティハラスメント(イメージ)

    マタニティハラスメント

    マタハラの定義と企業で取るべきマタハラ対策

    マタニティハラスメントとは、妊産婦に対するいじめや嫌がらせ、不当な扱いをする行為です。「妊産婦」という理由だけで嫌味を言ったり、退職を勧めてきたり、圧力をかけられたりなどがあります。企業にはマタハラ防止措置を取る義務があり、悪質な場合は法的責任を追及されるケースも。企業はどのようにしてマタハラと向き合っていけばいいのでしょうか。

    産休明けで出社をしたら担当職務を外される、産休中に本人の同意なしに解雇されるなど、様々なマタハラがあります。事例を通して企業で起きているマタハラを見ていきます。

  • 過重労働・過労死(イメージ)

    過重労働・過労死

    急増する過重労働・過労死と企業に求められる対策

    過重労働とは、時間外・休日勤務が一定数以上を上回る、働き過ぎをいいます。近年、企業における過重労働問題が表面化し、過重労働が原因で仕事のストレスやプレッシャーから、心筋梗塞や脳梗塞、うつ病などを発症して過労死するケースも後を絶ちません。企業には従業員の安全と健康を守る義務があり、それを怠ると賠償責任が問われます。過重労働・過労死に対して、企業はどう向き合っていけばいいのでしょうか。

    過重労働から病気になって過労死し、それが労災として認められると、遺族は企業に対して損害賠償を請求して、訴訟を起こすことがあります。事例を通して過重労働・過労死の実態を見ていきます。

  • メンタルの病気(イメージ)

    メンタルの病気

    増加するメンタルの企業に求められるメンタル対策

    近年、会社が原因でメンタルの病気になる人が増えています。特に新入社員は社会経験が少なく、仕事のノルマやプレシャー、新しい環境に馴染めずに、うつ病になる人が多いようです。代表的なメンタルの病気にはうつ病、パニック障害があります。労働安全法でストレスチェック制度の導入を義務付けが始まり、従業員のメンタル対策に取り組む企業が増えています。

    入社早々、上司の厳しい指導が苦痛になってうつ病を発症したり、周りの人と歩調を合わせようとし過ぎてパニック障害になったり。事例を通して様々なメンタルな病気を見ていきます。

  • 残業代不払い・不当解雇(イメージ)

    残業代不払い・不当解雇

    残業代不払い・不当解雇と企業が取るべき対策

    長引く不況のあおりを受け、業績が悪化して残業代不払い・不当解雇で企業に賠償責任を求める裁判が増えています。

    残業代不払いとは就業時間以外に働いた残業代を払わないこと。不当解雇とは、正当な手続きを取らずに解雇することです。労働基準法には、残業代支払いや解雇の基準が明確に定められています。残業代不払い・不当解雇は違法行為にあたり、企業としての責任が追及されます。企業はどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

    時間外労働が月100時間を超えているのに、残業代が一切支払われていない。新卒採用の内定通知を受けたのに入社10日前に突然、採用取り消しの通知が届いたなど、残業代不払い・不当解雇の事例を見ていきます。

  • 事故・ケガ(イメージ)

    事故・ケガ

    従業員の事故・ケガと企業に求められている対策

    社用車を運転中に従業員が交通事故を起こして、被害者に被害を与えると、企業に使用者責任が問われます。使用者責任とは使用者に課せられた責任で、従業員に代わって企業が賠償責任を負う義務があります。また企業では従業員が交通事故を防ぐために安全運転管理者の選任義務もあり、これらを怠ると法的責任が問われることに。事故・ケガの防止策として、企業はどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。

    マイカー通勤中に交通事故を起こしたり、業務中、社用車を運転していて人身事故を起こしたり、相手の車を損傷したり。従業員が起こした交通事故の企業の法的責任を見ていきます。

  • 【番外】要注意!こんなケースでも使用者責任になる(イメージ)

    【番外】要注意!こんなケースでも使用者責任になる

    広範囲にわたる使用者責任を問われる従業員の行為

    企業は従業員の行為に対して使用者責任が問われます。その範囲は従業員同士の傷害事件や、役職等を利用した横領、詐欺、窃盗など、広範囲にわたります。刑事責任が問われると企業の社会的信用が失墜して、莫大なリスクを背負うことになります。事業主には従業員に対して、立て替えた賠償金の返還を求める求償権がありますが、必ずしも補償されるものではありません。万が一に備えて対策を講じる必要があります。

    事務員が不正手形を発行して、会社の管理不行き届きとして使用者責任が追及されたり、受動喫煙で健康被害があったとして会社に損害賠償を請求したり。事例を通して使用者責任が問われるケースを見ていきます。

法律から理解する使用者責任の趣旨と要件

使用者責任は法律で定められている賠償責任

企業の業務に関する使用者責任は、民法715条で定められています。

“民法 第715条【使用者等の責任】

1.ある事業の為に他人を使用する者は、被用者がその事業の執行に付き第三者に加えたる損害を賠償する責に任ず。ただし、使用者が被用者の選任

及び、その事業の監督に付き、相当の注意を為したるとき、又は相当の注意を為すも損害が生ずべかりしときは、この限りに在らず。

2.使用者に代わりて事業を監督する者もまた、前項の責に任ず。

3.前2項の規定は、使用者又は監督者より、使用者に対する求償権の行使を妨げず。”

こちらをかみ砕いた表現で言うのであれば、以下の通りです。

1.事業のために従業員を使っている事業主は、その従業員が「事業に関連して行ったこと」によって第三者へ損害を与えてしまった場合、加害者に代わって第三者への損害賠償責任を負う。

2.事業主に代わって事業を監督・管理する者も、使用者責任を負う。

3.事業主や監督者などが、実際に被害を生じさせた従業員などに対して損害賠償を請求することは可能。


従業員が起こした問題を賠償するのは当たり前?

使用者責任の法的根拠は、次のように考えられています。

「他の人を使って事業を行い活動範囲を広げたり利益を得ているのであれば、その人が何らかの問題を起こし無関係な第三者に損益や損害を与えた場合、その人を使うと決めた事業主が責任を負うべき」

つまり、そもそも事業主(使用者)が他人(被用者)を雇用しなければトラブルも起こらなかったのだから、事業主が被害者に対しての賠償責任を負うのが筋でしょう、ということです。

ただし、ここで注意しなければならないのは、あくまでも「実際の加害者は被用者」という点です。これは後に説明する第715条の3項に関わってきます。


思っている以上に被用者は多い、使用者から見る被用者

使用者責任が成立する要件として、まず事業主と加害者の間の使用関係があります。事業主と従業員という形が一般的ですが、実際には判例によって、

“報酬の有無や期間の長さを問わず、使用者が選任して、使用者の指揮・監督の下で、事業に従事させている者”(大判大6・2・22民録23 -212)

とされています。

つまり正規雇用や非正規雇用、ボランティアなど、雇用形態は問わないということです。場合によっては下請業者や孫請業者までが被用者と認められることもあるのです。


従業員の犯罪も事業者の責任に

従業員が犯した犯罪。この要件こそ、使用者責任が事業主にとっての大きなリスクとなる原因です。

ここで問題になるのは、被用者の行為は業務中の不慮の事故に限定されるのでなく、その事業に関連性があるとされることまで拡大されるということです。例えば、最高裁判所が過去に出した判例では、こんな内容があります。

“手形振出事務を担当する会社の経理課長が、代表取締役のハンコを盗んで、会社名義の手形を偽造するのは、会社の事業の執行にあたる”(最判昭32・7・16民集11-7-1254)

つまり、本来の業務でなく被用者による明らかな犯罪であったとしても、被用者がそのような行為をできる理由が会社での立場や状況に帰結するのであれば、「事業に関連する行為」と見なされるということです。

そのような場合に第三者へ被害が生じたならば、事業者にはそれを賠償する使用者責任が生じます。


従業員への求償は可能か

とはいえ、使用者責任はあくまでも被害者である第三者に対する責任であり、加害者である被用者の責任を帳消しにするものではありません。したがって第三者へ損害賠償をした使用者は、本来の加害者である被用者に対して、今度は自らが被害者として賠償請求をすることも可能です。これは第751条3項にて認められている内容でもあります。

ただしこの場合、被用者の過失の程度や被害状況だけでなく、被用者の労働環境や使用者との関係性、そもそも使用者が問題防止にどれだけ取り組めたかなど、様々な事情も考慮されます。被った損害の全てを必ずしも賠償してもらえるとは限りません。