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損害賠償責任保険の補償範囲
延焼

施設等の管理不備によるテナントの延焼

入居するテナントが火災を起こし、その火が施設内の他のテナント等に延焼した場合、火元となったテナントはどの範囲で責任を負うのでしょうか?また、損害保険は、同様の事例に対して補償するのでしょうか?テナントから延焼した事例や、火元となったテナントの企業責任、損害保険で補償される範囲について解説します。

施設等のテナントの延焼とは

自らが入居するテナントが火元となって広がった火災

自らが入居しているテナントが火元となり、隣のテナントや施設全体に火災被害を与えるリスクがあります。特に飲食業を営むテナントなど、火を扱う業務を営んでいる事業者は注意が必要です。

日本では、自らが火元となって他人の不動産や財物に被害を与えた場合、失火責任法が適用され、火元の管理者には損害賠償を支払う義務が生じません。失火責任法は、個人にも法人にも適用されます。 ただし、火元のテナントに「重大な過失」が認められた場合には、失火責任法の適用除外となることがあるので注意しましょう。

施設等のテナントの延焼の事例

店舗の火災からの延焼で被害が拡大した事故例

テナントからの延焼火災について、裁判所では「重大な過失」を認めて損害賠償を命じた例も少なくありません。東京地裁と名古屋高裁の判例を見てみましょう。

クリーニング店からの延焼事例

配線修理を怠ったための火災

クリーニング店舗内にて、配線等に問題があったにもかかわらず修理を怠り、出火して延焼被害が生じた事例。裁判では、修理を怠ったことを「重大な過失」と認定され、火元のクリーニング店には延焼被害に対する損害賠償が命じられました。(東京地方裁判所平成19年9月14日判決)

火気厳禁の場所で喫煙して出火

煙草の不始末を原因とした火災

セルロイド製玩具を販売していた店員が、火気厳禁の場所で喫煙。火種の残った煙草の上にセルロイド製品が落下し、火災となって延焼被害をもたらしました。この事案に対して裁判所は「重大な過失」を認定。失火責任法の適用外とされ、店舗側に損害賠償が命じられました。(名古屋高裁金沢支部昭和31年10月26日判決)

施設等のテナントの延焼の企業責任とは

法的責任について

自分が借りているテナントが火元となって延焼被害を発生させた場合、テナントに入居する法人等は、どのような法的責任を負うのでしょうか?

  • 01

    失火責任法

    先に触れた通り、日本には失火責任法(通称)と呼ばれる法律があります。立法趣旨は「火災で財産を失った人に対し、他人の補償まで負わせることは酷だ」というものです。かつて木造家屋が多かった日本ならではの法律ですが、木造家屋が少なくなった現代でも法律は残っています。 失火責任法は、個人・法人に関わらず適用される規定です。よって、原則として火元のテナントには、他のテナント等に与えた火災被害を補償する義務はありません。

  • 02

    重大な過失

    ただし、火災の原因に「重大な過失」が認められた場合には、失火責任法の適用外となり、火元テナントは延焼被害を与えた周囲のテナント等に対し、損害賠償を支払う義務を負います。「重大な過失」とは、たとえば、油の入った鍋を加熱放置したことが原因で発生した火災、などです。

  • 03

    大家に対する原状回復義務

    たとえ失火責任法が適用されたとしても、テナントが賃借物件である以上、借主は物件の持ち主たる大家に対し、原状回復義務を負うことになります。 原状回復義務とは、賃借人が入居する前と同じ姿に戻す義務です。火災によって生じた建物への損害を、すべて自費(または保険金)で修繕しなければなりません。

施設等のテナントの延焼が起きたらカバーできる賠償責任保険の範囲とは

前半で説明した通り、日本の現行法には失火責任法があるため、自分のテナントから他人のテナントへ火を延焼させてしまったとしても、原則として損害賠償を支払う義務はありません。 ただし、火災の原因に「重大な過失」が認められた場合にはこの限りではなく、かつ、判例では「重大な過失」が認められているケースが少なくないことも理解しておきましょう。

「重大な過失」による延焼を補償するものとして、一部の保険商品の中には「類焼損害補償」といった特約を用意しているものもあります。具体的な補償内容については、個別の保険寝異様によります。また、たとえ火元のテナントが延焼の責任を問われなかったとしても、大家との間における原状回復義務は消滅しません。原状回復義務を補償する保険は、「借家人賠償責任保険」です。テナントを借りる予定の方、または、すでにテナントを借りている方は、今一度、加入中の火災保険に「借家人賠償責任保険」が付帯しているかどうかを確認しておいたほうが良いでしょう。